出版の未来のカギを握るエストリビューター

公開日:2011/10/24

最終更新日:2024/02/17

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デジタル書籍の普及で既存の書店はもちろん出版社の存在意義まで無くなるまでとはいわずともかなり縮小してしまうのでは?という懸念が出版業界でもあるようです。かつての流通経路を握ったディストリビューターとしての出版社の役割は確かに縮小するかもしれませんが、電子書籍、eブック時代ならではの流通、すなわちエストリビューター(Estributor)の存在がより重要になるのではないか?という記事を次世代メディアを考えるThe Next Webから。 — SEO Japan

eブックが本のマーケットでますます存在感を表していることは周知の事実であり、今後の四半世紀の本の多数を占めるようになる可能性は高い。手早く、簡単に配信することが可能であり、また、販売と購入も容易に実行することが可能で、なお且つ、改訂を継続的に行えるため、eブックは出版社と読者の双方にメリットがある。

しかし、書籍のマーケットの仕組みに混乱が生じている。作家は、eブック配信の利点は、多くの場合、第三者の過去の出版社を迂回して、自ら配信を行うことで、より多くの収益を得ることが出来る点だと理解している。より多くの収益を得られるなら、それに越したことはないはずである。

しかし、一冊当たりの印税が増える誘惑があるものの、一般レベルのライターが出版社と作家の役割の双方をこなすことは出来るのだろうか?

作家が事実上自己出版し、売り上げの大部分を手に入れることを可能にするマーケットにより、個人が十分なリソースを活用して、個人の出版社を容易に立ち上げられるようになるため、これは興味深い疑問である。インターネットのおかげで、作家は優れた編集者、アーティスト、そして、フォーマットのスペシャリストを見つけ、協力して、プロ級の書籍を印刷フォーマットおよびデジタルフォーマットで作成することが出来るようになったのだ。

しかし、誰でもこの取り組みを行えるのだろうか?全ての作家が出版社に任せていた大量の仕事に自分で取り組みたいと望むのだろうか?多くの作家は望むだろう。それだけ手に入る金額が多くなるのだ。それではどれだけ多くなるのだろうか?書籍の売り上げの自分の取り分が15%から70%に増えると想像してもらいたい。革新的な変化である。しかし、全ての作家がかつては作品を綴るために費やしていた時間を個人の出版組織を運営する作業に費やしたいと望むわけではない。結局、表紙に関してアーティストと口論する時間は、文章を綴るための時間ではないのだ。

繰り返すが、抜け目のない作家なら、少なくとも、多くの分野において差し替え可能な企業に作品の収益の大半を与え続けたいとは思わないはずだ。その証拠をお見せしよう。ハリー・ポッターで一躍有名になったJ.K. ローリング氏は自己出版を始めている

それでは、出版社の支援を打ち切りたくないものの、通常の出版社が手放せない、より多くの収益を手に入れたいと望む作家に対して、中間的な選択肢は存在するのだろうか?現在は見当たらないものの、この状況は変わろうとしているようだ。

ここで登場するのがJ.A. コンラート氏が考案したestributor(エストリビューター)のコンセプトだ。皮肉にもコントラート氏は、作家による出版社からの独立を支持する人物として知られている。

エストリビューターとは何だろうか?まずはコントラート氏の説明を参考にしよう:

作家と自己出版のビジネス面との間のバッファーの役割を果たす世話役である。この仕事をエストリビューターと私は名付けた。自己出版にのめり込むと、執筆活動以外の仕事に時間が奪われていく現実に嫌と言うほど気づかされる。独立すると、小さな会社となり、その会社を経営する責任を全て負うことになる。すると執筆の時間が削られてしまうのだ。時間管理と生産性を簡単に評価してみた結果、エストリビューターにビジネス面を任せ、15%の利益を与えた方がより多くの収益を得られる点に気づいた。執筆の量が増えるため、エストリビューターを雇う費用が相殺されるためだ。また、会社を運営するよりも、執筆する方が性に合っているため、より幸せな気分で仕事に臨める。

このアイデアが現実になろうとしている。ディステル & ゴダリッチ社は、現在、エストリビューターに瓜二つのサービスを作家に提供している。しかし、この取り組みは始まったばかりであり、同社の本業は作家の出版業務であり、従来型の契約を結ぶ業務である。いずれにせよ、マーケットに存在する様々なプレイヤーが強い関心を示しており、eブックの流れに乗るにはどうすればいいか考え、従来の出版業の世界が崩壊していく中、新たに生まれようとしているチャンスを掴もうとしているため、重要な動向だと言えるだろう。

エストリビューターが実用的な事業計画を代理して務めると言う、コンラート氏のデータが正しいなら、このアイデアは的を射ている可能性がある。作家は執筆活動に励み、一流のエストリビューターを雇って、手頃な料金で細かい作業を管理してもらうのだ。それでも従来型の出版社と契約するよりも、1冊当たりのセールスで得られる収益は遥かに多い。それでいて、完全に独立することで発生する問題を回避することが出来るのだ。

エストリビューターは出版する本に投じる資金の額を調査し、編集作業、表紙の絵、フォーマット化、そして、プロモーションをまとめる。そして、一定の期間に対する取り分が(コンラート氏は15%と言っているが、それよりも若干低い可能性がある)、経費を埋め合わせ、その結果、利益を得られると考えるのだ。

既に地位を確立した作家なら、作家およびエストリビューターの双方にとって、15%のレートはうまくいくはずだ。定着した人気を持つ作家は、ブランドの知名度およびファンベースを既に持っており、初めて出版する作家よりも遥かに多くの作品が売れる見込みがある。そのため、実力が証明されていない新人作家の場合は、エストリビューターは高いレートを得る交渉を行う必要がある。そうすることでリスクを軽減することが出来る。それでも30%程度の取り分をエストリビューターに与えたとしても、従来のレートよりも遥かに作家に有利である。そして、作家とエストリビューターは複数の書籍を出版する中で、力を合わせて関係を構築し、作品ごとにレートの再交渉を行うようにすればよい。

しかし、アマゾンはどうなるのだろうか?この全体図にアマゾンはどのようにフィットするのだろうか?同社は2.99ドル以上の電子書籍の売り上げの30%と言う大きなマージンを要求している。これは単なる臆測だが、今後、売り上げの多い、人気の高い作家や出版社に対しては、アマゾンは若干レートを改善し、自分達の取り分を5-10%削るだろう。大したことがないように思えるかもしれないが、売り上げが数万冊に上れば、話は変わってくる。

なぜアマゾンはそんなことをするのだろうか?なぜなら個人の書籍を売る場所として1位の地位を譲りたくないからだ。Nookはキンドルに脅威を与えている。もしアマゾンが上述したようなレートのカットを行ったら、個人よりもエストリビューターを介して本を出版する方がより経済的になるだろう。

この考えはひとまず脇に置いて、初めての作品で“ヒット”を狙う若い作家の視点でこのパブリッシングを見てみよう。新人の作家にとっては、出版社がさらなる売り上げを見込んで広告費をふんだんに使ってくれることを望み、大手の出版社と契約を結んだ方がいいのではないだろうか?その可能性は低い、と言うのが私の答えだ。昨年、数名の作家と会話を交わすなかで、私の耳に届く話はいつも同じだった。大手の出版社は、新人の作家の作品にはほとんど広告費を使わないようだ。なぜなら、その広告費を確実にヒットする作品につぎ込む方が見返りが多いと感じているためだ(有名作家の本、映画やブランドに関連する本など)。ある作家は、パブリシティの“エキスパート”を紹介され、その人物からは「フェイスブック」を使って、作品をプッシュしろと言われたようだ。その後、このエキスパートは姿を消した。

右側にいるのがコンラート氏: Spine Tingler Magazin

この例を通して私が言いたいのは、従来の出版社が真面目にマーケティングを支援するのは、超有名作家の作品のみであり、一方、エストリビューター、そして、そのローコスト・ローカットモデルは、競争に勝つために1つの作品に大金を投じる必要がないため、経済的に実現可能であると言う点だ。言うまでもなく、作家なら誰しも出来るだけ多くのパブリシティを獲得したいところだが、少なくともエストリビューターは1つの作品に対する投資を三倍にする必要はなくなる。

今回の投稿はいろいろと考えさせる内容だが、皆さんの役に立つことを願っている。肝に銘じておいてもらいたいことがある: データを物理的に流通させる業界は例外なく革新の機が熟しており、出版業界以外でも時代遅れの例が続々と見つかるだろう。

最後になるが、現在、アマゾンはeブックでマーケットリーダーの地位を得ているが、他のプレイヤーが立ちあがり、対抗する日がやって来る可能性はある。まだeブックのマーケットは生まれたばかりであり、この状況は作家、読者、そして、恐らくまだ確立されていないエストリビューターにとっても好都合である。

ライター紹介

アレックス・ウィルヘルムはシカゴ在住のライターであり、ここ数年で複数のテクノロジー企業に勤め、特にソーシャルウェブの収益化に強い関心を持っている。ツイッター、もしくはフェイスブックでアレックスの動向を追おう。また、eメールalex@thenextweb.comを介してコンタクトすることも可能だ。


この記事は、The Next Webに掲載された「Are estributors the future of publishing」を翻訳した内容です。

私も元々音楽配信のビジネスをしていたこともあり(広告を出すお金が無くてSEOを覚えました・・・)非常に興味深く読みました。エストリビューターという名称が普及するかはともかく、一部の巨匠を除く多くのライターを個人レベルで支援するエージェント的存在はeブック時代にますます重要になりそうですね。作者の才能を開花させ売れる作品に仕上げさせ、実際に売り込む能力を持った有能なエストリビューターがこれまで以上に個人レベルで活躍する日が来るのでしょうか。エストリビューターと作家をつなぐマーケットプレースのようなものができあがってくるのかもしれませんし。

とはいえ既にデジタルが主流になりつつある音楽にしても「CDを1万枚売る必要はなくなった。お金を払ってくれる1000人のファンがいれば音楽で生きていけるようになった。」といわれてはみたものの、実際それで成り立っている事例はほとんど聞かなかったりする現実もまだまだあるのですが。音楽ならレディオヘッドやマドンナ、書籍でも村上龍やハリー・ポッターの作者などは自身が主導権を取ってデジタル化に対応しているようですが、あくまで知名度とファンのいるメジャーアーティストだからできる話なのがまだまだ実態です。そうはいっても10年後、20年後、50年後の未来を考えると、、、いずれにしても巨大出版社の時代は終わってしまうのでしょうか?それか大手出版社は今とは全く姿かたちを変えた、才能溢れるエストリビューターを集めたタレント集団のような存在になっていくのかもしれません。

後は記事にもあるようにアマゾンやAppleのような余りにも圧倒的すぎる流通プラットフォームがマージンを取り過ぎていることも気にはなりますけどね。作家視点から見た場合、流通プレーヤーが変わっただけ中抜きされすぎることは過去と余り変わらないというか。これも記事にあるように競合が増えることで変わってくるのでしょうが、ブリック&モルタルビジネス(なんか懐かしい響き)以上に寡占化する傾向のあるネットの世界、出版の未来はまだまだどうなっていくのか分かりません。 — SEO Japan

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アイオイクス SEO Japan編集部

2002年設立から、20年以上に渡りSEOサービスを展開。支援会社は延べ2,000社を超える。SEO/CRO(コンバージョン最適化)を強みとするWebコンサルティング会社。日本初のSEO情報サイトであるSEO Japanを通じて、日本におけるSEOの普及に大きく貢献。

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