スタートアップの買収から学んだマーケティングの7つの教訓

最終更新日:2024/02/16

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大型のスタートアップ買収が日本でも進んでいますが、SEO Japanでもお馴染みのスーパーWEBマーケッター、ニール・パテルが自身のスタートアップ買収を通じた学んで経験をシェアしてくれました。数十億単位の巨大買収ではなく、小規模な買収実例だけに、参考になる人も多いかもしれません。 — SEO Japan

startup

昨年、 CrazyEggを共同で創設したヒテン・シャーと相談して、セールスCRMサービスを提供する会社「Strideapp」を購入した。通常、私達は、会社の買収、そして、新しい会社の設立には消極的である。なぜなら、既にやるべきことが山積みの状態だからだ。

しかし、この取引は、あまりにも魅力的であったため、見過ごすことは出来なかった。また、セールス業界に精通する、私達二人の共通の友人であるマイクが、スタートアップの経営に前向きであったこともプラスに作用した。そこで、ヒテンと私は、マイクに経営を任せる判断を下したのであった。

この買収では、興味深いことに、ヒテンと私自身は、セールスCRMの業界の知識がほとんど持っていなかった。さらに、日常的なベースでは、経営に関与しない初の試みとなった。

Strideappを買収する前は、基本的に、マーケティング業界に属し、小中規模の会社のマーケットに力を入れている企業のみを買収の対象としていた。なぜなら、私達のつながりはこの業界に集中しており、製品の売り込みが楽だからだ。

Strideappは、セールスの分野に属するため、私の名前をアピールしたところで、ほとんど効果はない。ゼロから始めるようなものだ。起業家としては、10年以上の知識を持っているものの、私の「コツ」はセールス業界では通用しない。つまり、読者の方々と全く同じ立場に身を置いていることになる。

それでは、Strideappの買収から得た7つのマーケティングに関する教訓を紹介していく:

教訓 #1: 資産価値はトラフィックを凌駕する

SEOのエキスパートとして、私は何よりも先にキーワードの量を確認する。私が経営する会社の多くは、ウェブ分析業界に属する。そのため、「ウェブ分析」関連の用語を意識して、会社の最適化を行う。

一方、Strideappは、セールスCRMの分野に所属する。そのため、この分野で人気の高い用語を調べるため、キーワードリサーチを実施した。

sales crm

上のグラフにも表れているように、Google トレンドは、ウェブ分析の分野は、セールスCRMよりも人気が二倍高いと指摘していた。通常、この傾向は、分析の分野の方が、収益を獲得しやすいことを意味する、はずである

しかし、私の考えは誤っていた。どちらの分野も競争は激しいが、セールスCRMの方が、遥かに登録者を得やすかった。なぜなら、セールスCRMを検索している会社は少なくても、より多くの会社が、解決策を求めているためだ。

収益の面においては、最大のセールスCRMサービスを提供する会社と言えば、何と言ってもSalesforceであり、330億ドル以上の価値を持っている。一方、最大の分析サービスを提供する会社は、Omnitureである。AdobeがOmnitureの買収に投じた金額は18億ドルであった。SalesforceとOminitureの間には、実に18倍の差が存在するのだ。

非常に大きな差だと言わざるを得ない。

時価総額が大きければ大きいほど、会社は大きい。そして、会社が大きければ大きいほど、得られる収益は多くなる。

会社を売り込む試みを行う際は、私がかつてそうしていたように、単純にキーワードの量ばかりに固執するべきではない。時価総額に注目しよう。時価総額が大きいなら、登録者を増やす際に、口コミが大きな役割を果たす。

教訓 #2: 完璧は過大評価されている

Strideappに関するブログの記事を作成するつもりだ、とマイクに伝えると、もう少し待って欲しいと言われた。マイクは、新しい製品とデザインを先に立ち上げたかったからだ。論理的には、このアプローチは、より多くの登録をもたらすはずである。

現在のデザイン:

stride

新しいデザイン:

stride new

現在のアプリケーション:

stride app

新しいアプリケーション:

stride app new

マイクの考えは、正論である。新しいデザインは、遥かに使いやすく、優れたユーザー体験を実現するだろう。

しかし、宣伝する際に、新しいデザイン、もしくは、製品の改善をなぜ待たなければならないのだろうか?実は、待つべきではない。私自身は、デザイナーでもなければ、ディベロッパーでもない。そのため、自分ではどうすることも出来ない遅れが生じる可能性が高い。

製品の宣伝を待ち続けると、実際に製品が軌道に乗るまでに数ヵ月を要することもある。完璧に仕上がるまで待つべきではない。なぜなら、決して完璧に仕上がることはないからだ

マイクは、新しいバージョンをリリースしたら、ユーザーから多くのフィードバックが寄せられ、修正しなければならないアイテムが続々と増えていく現実を理解していなかった。事実、このサイクルに終わりはなく、マーケッターは、デザイナーやディベロッパーが、主要なアップデートを終えるまで、宣伝を待つべきではない。

教訓 #3: 無料に勝るものはなし

実は、KISSmetrics(私自身が経営する会社)の競合者、Mixpanelからこの教訓を得た。

kissmetrics

上のグラフを見ると、Mixpanelが、私の会社よりも、早いペースで成長していることが分かる。面白いことに、Kissmetricsは、Mixpanelよりも、2-3倍多くのトラフィックを獲得している。それでも、私達の会社よりも、Mixpanelは早く成長している。

その理由を皆さんにも考えてもらいたい。製品の質ではない。Mixpanelが無料プランを提供していることが理由であった。KISSmetricsでは、無料プランを用意していなかった。また、製品の質がどれだけ高くても、あるいは、低くても、無料と言う言葉に人々は弱い

Strideappは競争の激しい分野に身を置いているため、同様のアプローチを採用し、アプリを無料で提供することにした。今後、どのように収益化していけばよいのか、現段階では未定だが、会社を資金面で援助することが可能な限り、特に心配はしていない。

無料モデルに移行した瞬間、何が起きたのか想像してもらいたい。登録者が、1100%増加したのだ。爆発的な増加である。無料化戦略の長所は、マーケッターがほとんど仕事をしなくても、勢いをもたらすことが出来る点だ。

新しいデザインをリリースし、コンバージョンに対する最適化を行えば、サイトにビジターを送ることなく、登録者数を3倍に増やすことが出来ると私は確信している。

無料で製品をリリースするアプローチには、幾つかのメリットがある:

  1. 消費者に許してもらえる – 無料で製品に登録した場合、クレームを出す意欲が失せる。
  2. 収益を得る機会を見つけることが出来る – 「この機能を加えたら、製品に対して、お金を払ってもいい」、とユーザーは会社側に明かす。すると、製品を容易にフリーミアムモデルに転換することが可能になる。

新しいマーケットであれ、古いマーケットであれ、マーケットを破壊したいなら、フリーミアムの製品をリリースする取り組みを検討すると良いだろう。有料の製品よりも、半分無料の製品を宣伝する方が、遥かに楽である

教訓 #4: マーケティングは、前工程を最適化するだけでなく、後工程まで最適化する

マーケッター達は、前工程の最適化に焦点を絞る傾向がある。ファンネル(漏斗)を想像してもらいたい。外部のサイトから、ホームページへ、ホームページから、価格情報のページへ、会計のページへ、そして、最終的にクレジットカードの支払いページへと向かわせる流れを最適化する。

funnel

理論上は、ファンネルに送り込む人が多ければ多いほど、より多くの収益を得られることになる。

このアプローチに、何か問題はあるのだろうか?実は、前工程のみに力を入れると、収益を得る多くの機会を見逃してしまう。前工程と後工程の双方の工程を最適化すると、遥かに多くの収益を得られる。

例えば、Strideappでは、私達はアプリケーションの最適化(後工程)に力を入れなければならない。さもないと、製品を使ってもらい、定期的にログインしてもらえない。この状態では、無料版のユーザーにお金を支払ってもらうのは、非常に難しくなる。

Eコマースのビジネスにも同じことが言える。製品を買ってもらったら、それで終わりではない。さらに製品を購入してもらうには、どうすればいいのか?あるいは、友達に薦めてもらうには、どうすればいいのか?を考えるべきだ。Eメールブラスト等のマーケティング戦略を活用すると、後工程の売り上げを増やす効果が見込める。

繰り返すが、コンバージョンの最適化を考慮する際は、ウェブサイトの前工程だけに力を入れるべきではない。後工程も重要である

教訓 #5: 競争の激しいマーケットでは他社との差別化は難しい

私達がStrideappでセールスCRM業界に参入したように、飽和したマーケットに参入する際は、他社との差別化は、非常に困難になる。製品がどれだけ良くても、競合者と大きく異なる製品を作るのは容易ではない。

だからこそ、スティーブ・ジョブズは特別な存在になれたのだ。ジョブズと同じスキルを持つ人物は、稀である

再び、セールスCRMの業界を例にとって考えてみよう。他社の製品よりも優れた製品を作る方法が分かっても、Salesforceに勝つことは不可能である。なぜなら、Salesforceは、多くの大規模なセールス企業の基幹となっており、既存のソリューションの多くとつながっているためだ。さらに、大半の営業スタッフは、Salesforceに既に慣れ親しんでいる。

そのため、B2Bの分野では、優れた製品を作るだけでは、不十分だと言えるだろう。企業が、その製品に切り換えるとは限らないのである

それでは、混雑した業界で目立つには、どうすればいいのだろうか?幾つか方法がある…

  • 値下げ – より安い価格で製品を販売する、もしくは、無料で提供すれば、マーケットのシェアを獲得することは可能だ。
  • より使いやすい製品にする – 競合者の製品よりも、使いやすい製品にするアプローチは、マーケットシェアを得る上で有効である。
  • ニッチを作り出す – CRM業界で、RelateIQがニッチを作り出し、買収のきっかけを作ったように、マーケット内に新たなニッチを作り出すことが出来る。
  • 優秀なマーケッター – SEOから、有料広告、そして、コンテンツマーケティングに至るまで、可能性は無限大だ。競争の激しい業界では、常に優秀なマーケッターが必要になる。競合者よりも良いコンテンツを作り、上位にランクインし、ソーシャルメディアで人気を得られれば、最終的に、競合者から徐々に顧客を奪うことが可能になる。

残念ながら、飽和しているマーケット、特に競争が激しいマーケットで、目立つための単純なソリューションは存在しない。しかし、上の戦略を組み合わせて活用すれば、成功する可能性はある。

だからこそ、私達は、Strideappで、無料の使いやすい製品を作成する取り組みに力を入れている。また、時間の経過と共に、競合者よりも上位にランクインし、コンテンツマーケティング等の手法を介して、より多くのトラフィックをもたらすことが可能になる。

教訓 #6: マーケティングの最大の難点はメッセージの作成

マーケティングで最も難しいのは、作業を実行する段階だと指摘する人は多い。しかし、この取り組みを代行する人を雇えば済む。しかし、どれだけ賢いマーケッターであっても、メッセージを作る取り組みに苦戦するはずだ。

なぜなら、製品やサービスに対する最高のメッセージを決定することは不可能だからだ。決定権は、顧客が持っている

顧客が少ない、初期の段階においては、メッセージの内容を決めるのは、非常に難しい。しかし、一度内容を決めたら、顧客が助けてくれる。調査を行えばよい

QualarooSurvey Monkey等のツールを使って、次のような問いを投げ掛けよう:

  • なぜこの製品に登録したのですか?
  • この製品がどんな問題を解決することを望んでいますか?
  • この製品を一言で表現してみて下さい。
  • この製品を一つの文で表現してみて下さい。

顧客を継続的に調査していくと、顧客による製品の表現において、共通点が見つかる。顧客が利用するワードとフレーズが分かったら、メッセージに統合しよう。

ただし、完璧なメッセージを作ることが出来るとは限らない。それでも、良いスタートを切ることは出来る。次のような質問を尋ねられなくなるまで、テストを行い、調整を続ける必要がある:

  • この製品はどんな機能を持っていますか?
  • 競合する製品との違いは何ですか?
  • この製品を利用する大きなメリットは何ですか?
  • 解決してもらえる最も大きな問題は何ですか?

当然だが、複数の段落の中で、このような疑問に答えていくことは可能だが、出来るだけ少ないワード数で疑問に答えられるように努力してもらいたい。

完璧なメッセージに仕上がったら、登録する人はうなぎ上りに増えていくはずだ

教訓 #7: 世界は米国を中心に回っているわけではない

米国で生活を送る起業家なら、通常は、米国の消費者/企業のために、会社を設立する。これでは、残念ながら、その他の国々の存在に気づかず、無視してしまうことになる。

新たな分野で、イノベーションをもたらす会社を設立しているなら、米国等、一つのマーケットに焦点を絞るアプローチでも構わない。しかし、Strideappのように、飽和した市場で事業を行うなら、一つのマーケットに焦点を絞る戦略は、とりわけ当該のマーケットへの進出に多大なコストがかかるなら、有効ではない。

実際に、中小規模の会社の市場をターゲットにする、その他のソフトウェア会社と話をしたところ、手始めに、国際的な市場に力を入れ、競争の激しい市場への進出を成功させたことが分かった。その理由を説明しよう。海外の市場には、まだサービスが行き届いていないだけでなく、当該の地域の企業は、ソフトウェアを購入する余裕があったためだ。

Get Response、そして、その他の国際的にサービスを展開するソフトウェア会社に話を聞いたところ、各国の通貨を受け入れることで、海外への接触範囲を広げられる点が明らかになった。

例えば、複数の通貨を受け入れると、海外のコンバージョン率は、30%増加する。そして、ウェブサイトを、ターゲットの国に言語に翻訳すると、コンバージョン率は、通常、50%増える。

会社を成長させたいなら、他の会社が力を入れるマーケットのみに焦点を絞るべきではない。飽和していないマーケット、つまり、米国のマーケットよりも、競争が緩いマーケットに狙いを定めると、大きな成功につながる可能性がある。当該のマーケットを制したら、競争の激しいマーケットにサービスを拡大すると良いだろう。

まとめ

皆さんの立場でモノを考えるのは、実に久しぶりである。つまり、近道やズルをして、Strideappを売り込むことは出来ない。なぜなら、セールス業界において、ほとんどコネを持っていないためだ。

いずれにせよ、この会社を成功させる自信はある。当然、Salesforceほど成長させることは不可能だが、資産価値が高い業界であるため、最低でも数十億円クラスの企業に成長させるのは、それほど難しくはないだろう。

会社を成長させたいなら、どんなことがあっても続けるべきだ。Strideappを買収した後、以前と比べて仕事量が増えたため、投げ出しそうになったが、気合いを入れ、また、工夫を加えた結果、成功すると確信することが再び出来るようになった。

最後に問いたい。スタートアップを売り込むユニークな方法を他に何かご存知だろうか?


この記事は、Quick Sproutに掲載された「7 Marketing Lessons Learned From Acquiring a Startup」を翻訳した内容です。

最初に出てきた検索数に囚われ過ぎないという話は検索マーケッターは注意したい点ですね。資産価値の比較はともかく、検索数以上にコンバージョン単価やそこから道びだされる利益の方が企業としては重要なわけです。その後も「まずは情報発信を始める」というアドバイスを始め、競合が多い市場で戦う方法やメッセージの重要性など、スタートアップ成功のヒントになる話題が多かったです。マーケッターがマーケティングの前工程を最適化する努力はするが、後半はおざなりになりがち、という指摘はまさに日本でもその通りかと思います。その点に関しては、近日開催予定のコンバージョン祭(満員御礼!)で共に学びましょう。 — SEO Japan [G+]

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アイオイクス SEO Japan編集部

2002年設立から、20年以上に渡りSEOサービスを展開。支援会社は延べ2,000社を超える。SEO/CRO(コンバージョン最適化)を強みとするWebコンサルティング会社。日本初のSEO情報サイトであるSEO Japanを通じて、日本におけるSEOの普及に大きく貢献。

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